「宿題やってこない日が続いているけど,どうしたの?」
別に宿題やろうがやらなかろうがどうでもいいのだが,中学進学を控えて「宿題ぐらいは,やってみせろよ」と思ってしまったのが運の尽きだった。
「ゲームに時間取られて,宿題やる暇ないんだって?だったら,宿題やる時間を作るにはどうしたらいいか考えなよ!」
と教室前の広場で指示して放った。
そしたら,彼はいなくなった。
あせって,昇降口へいくと
「走って,出て行ったよ。」
と用務のおじさん。「止めてくれよ!」と腹で思ったが,そのまま外へ探しに出る。
探して探して,彼の自宅まで行くが,いない。家にもいない。
すると,彼の母親から電話。今,彼は母親の職場にいるらしい。
ほっとして,彼の母親の職場へ迎えに行く。そのまま,学校へ連れて戻れると思ったらそうはいかなかった。
「ここにいたい。」
彼は,それだけ言って動こうとしなかった。戻りたくないならしかたがない。教頭に来てもらって,授業をやりに自分だけ学校へ戻った。
午前の授業を終えて,現場に戻ると,彼の表情はだいぶ緩んでいた。1時間ほどの教頭との会話が,彼の心を溶かしたようだ。
そのタイミングで聞いてみる。
「どうして,出て行ったの?」
「宿題やろうとは思うんだけど,ゲームに時間取られて,できない。ゲームをやめることができない,宿題やらなきゃならないのに。どうしていいかわからないのに,どうすればいいか自分で考えろって言われて,困って,頭にきて,脱出した。」
彼は,困っていたのだ。怠けてずるしていたわけではなく,自分でどうにかしようと思っているが,どうにもならないでいたのだった。
それに気づかないまま叱責してしまった。危ない危ない。彼の精神状態と状況次第では,エスケープですまなかったかもしれない。その意味ではラッキーだった。
「じゃ,どうしたらいいかいっしょに考えよう。」
ゲーム依存のチェックリストから,依存傾向を自覚してもらい,依存のデメリットと克服の困難さを理解してもらった。で,なんだかんだ話しているうちに,彼の母親が合流してきた。彼は,母親の手を握りながらゲームと宿題の両立についていっしょに考えてくれた。
ゲームのやりすぎで家庭でも叱られ続けていたらしい。まともに両親の愛情を時間できない時間が続いたようだ。学校でも,彼は成績優秀で,生活に乱れがないため特に指導を受けることもなかった。それなのに,宿題やらないということで担任からの愛情も断ち切られてしまったと感じたようだ。
今回のエスケープは,親や担任の自分に対する愛情確認行為だったのかもしれない。エスケープしたことで,親も担任も彼の問題について,彼と考え,彼は愛情を確かめることができた。
もともと彼は作業処理が早いので,帰宅したらドリルを音読して,漢字の書き取りを3分で終わらせ,その後,ゆっくりゲームを楽しむということになった。真の解決にはなっていないが,今の彼には,それでいいのかもしれない。
とりあえずの結論が出たところで,彼は自分で立ち上がって,学校へ戻った。